文解釈の曖昧性 (その 2)

ちゃんみむです!先回の記事に引き続き、文解釈の曖昧性 (ambiguity) について掘り下げて説明したいと思います!

ambiguity ? なんじゃそれ ? 

と思った方は、先回の記事を改めてご覧ください!

 

今回は (も) とある歌詞を使って説明したいと思います。

皆様、「ゲスの極み乙女」というバンドはご存知でしょうか?

川谷絵音さんを中心に結成されたバンドで、風刺の効いた歌詞と、高度な演奏技術がたまらないバンドですね!

そして、その「ゲスの極み乙女」には、ちゃん MARI さんというキーボードの方がいます。僕の推しです (笑)。

その ちゃん MARI さんが、“FUKUSHIGE MARI” 名義でソロ活動をたまにしているのですが、昨年公開の「月の満ち欠け (Phases of the moon)」という映画の劇伴を担当していました。涙なくしては聴けない曲、そして涙なくしては観れない映画ですので、ぜひご覧になってみていただきたいのですが... その楽曲のひとつに “Reminiscence of Ruri” という曲があります (Reminiscence は、「回想」という意味です)。リンクを貼っておくので、よかったら一度聴いてみてください!

 

www.youtube.com

 

さて、この曲は、こんな歌い出しから始まります。

 

“The dark hugs the sky with no moon I rely on the stars by the sea I listen closely to the silence so deep so tranquil that I can't hear your wings at all my love my dear.“

 

おい!!ピリオドがないじゃないか!!

 

と思った方は、鋭いですね。そう、あえてピリオドを付けずに書いてみました。

 

では、皆さん、一度この文章を見て、ピリオドを振ってください。ちなみに、3つの文に分けることができます。

 

さて、まず最初の文ですが、さっそく 2 通りの「分け方」が考えられますね。

 

[解釈 1] The dark hugs the sky with no moon.

[解釈 2] The dark hugs the sky with no moon I rely on.

 

解釈 1 のほうは、「月のない空が暗闇を抱く」という意味、

解釈 2 のほうは、「もたれかかる月もない空が暗闇を抱く」という意味

でとらえられます。「もたれかかる (= 寄り掛かる)」という部分は、“rely on” という英語を訳したものです。

 

そして、解釈 2 の場合には、[I rely on] という S (主語) V (動詞) の塊 (節) が、“moon” という名詞を修飾しています。隠れていますが、関係代名詞の that でつながっているということですね。

 

では、解釈 2 のほうを採用して、次の文を分けてみましょう。

 

[解釈 1] The stars by the sea, I listen closely to.

 

そうすると、文解釈はこの 1 つに収まります。

これはいったい何が起こっているのかというと... 

もともと to の後ろにあった “the stars by the sea” が文の頭にカンマを隔てて移動してきたということです。

つまり、もともとの文は、

“I listen to the stars by the sea (海のそばの星に耳を傾ける)”

という形だったというわけです。

実は、このように、文の要素の一部を文の先頭に持ってくることはよくあることで、専門的な言葉で「主題化 (Topicalization)」 と呼んだりします。

日本語でも、

「君からもらったバームクーヘン、食べたよ。」

というのを、

「食べたよ!君からもらったバームクーヘン」

とかって言えますよね。

で、あえて「食べたよ」を文頭に持ってくるのは、おそらく

「相手が、バームクーヘンの行方を気にしているから」です。

「今、君のバームクーヘンはこういう状態だよ!」

という情報 (相手が持っていない情報;新情報) を先頭に持ってくるのです (ちなみに、「相手のしらない新しい情報を伝える」というのが、よく学校の先生とかが言う「強調」の正体です)。

さっきの英文に話を戻すと、

「私が何かにじっと耳を傾けて聴いている」ことはわかっているけど、「何」に耳を傾けているのか (目的語) が判然としないから、その中身を最初に持ってきているということです。

 

困るのはこの後です。残った部分は、

The silence so deep, so tranquil that I can't hear your wings at all, my love, my dear. 

(愛するあなたの翼の音も聞こえないくらい深くて静か (= tranquil) な静寂)

いや、粗品みたいな言い方!!!

じゃなくて...

これ、文じゃないですよね...?? The silence を中心とした、ただの名詞句です。

なので、最初のところで [解釈 2] を採用したことが間違いだった!ということが、ここで分かります。

それでは、[解釈 1] に戻って、もう一度解釈してみましょう。

 

[解釈 1] The dark hugs the sky with no moon. 

すると、この後は、

I rely on the stars by the sea. (海のそばの星に寄り掛かる) 

となります (I listen closely to を付け加えてしまうと、I rely on とダブってしまうので...)。

そうすると、最後は

I listen closely to the silence so deep, so tranquil that I can't hear your wings at all, my love, my dear. (私は、愛するあなたの翼の音も聞こえないくらいの深くて静かな静寂にじっと耳を傾ける) 

と、すっきりと収まるのです。

 

このように、最後まで行ってやっと個々の文の解釈が定まる... 逆に言うと、最後の一文の解釈を定めるまで、文の解釈の可能性が「枝分かれする」ことを、”Garden Path 効果" と呼びます。

 

... もう一つ別の例を紹介したかったのですが、やはり文字数がかなり多くなってしまったので、その (3) に続きます!

 

では、次回も乞うご期待!